涙壺——霊魂が存在する神秘的な美術品

はじめてローマングラスに出会ったの小さな木箱、開けてみると真綿にくるまれたガラス小壺の宝物が現れた。ローマングラスの小壺。銀化した表面はエメラルドグリーンに輝いて、まるでエーゲ海を閉じ込めたのように連想した心象風景。

ローマンガラスの涙壺が、物に宿った霊魂が存在する神秘的な美術品と説く学者もいる。当時はとても貴重品で上流社会の贅沢品だった。切ないで綺麗な色。文化面も興味深い一方、造形も素晴らしい。本当は手にとって見たほうが遥かに綺麗。

涙壺は死者や戦地に赴く人を思って流す悲しみの涙を集める為のもので、この習慣は古代ローマ時代から存在した。用途は死者を悼む為の副葬品や、病気を治す霊薬など諸説あり、この中に入れた涙が蒸発すると喪に服す期間が終わるとも言われた。

仰天伏地にして思いの方をむいて慟哭している彼女達の姿を想像してみよう。そこには不思議と悲壮感や絶望感といったものは、彼女達の理想的にヴィーナスの頬に伝う一筋の密やかな泪の粒(Teardrop)である。その詩的な言葉の響きに酔い、器胎の七色に輝く幻想のなかに一編の小説を想い描こう。泪壺は現代人にとって古代への旅の切符のようなものだ。

涙壺(Tear catcher)と命名したものは、何となく詩的なネーミングだろう。実際に1~3世紀にしか見られない、涙を受け止めるために作るガラス器。戦争などで愛する人と離れた女性が、相手を思いながら流す涙をためたと言われるもので、古代ローマ時代からあったという説も。愛する人が戦争に行く。女たちは黙ってそれに耐え、密かにに涙を流した。

この壺を片手に持って目に当てる、涙が一滴も外へこぼれないように静かに、壺の口にあてがって声を出さずに泣く。あとからあとから涙は溢れてくる。涙の結晶が零れ落ちた、時が経てば、蜜に昇華できるだろうか。

 

参考

A Lacrymatory, at the Beja museum in Portugal(ポルトガル)

ヴァチカン美術館蔵品(Musei Vaticani)

西アジア涙壺(国立民族学博物館蔵)

Anatolian Civilization Museum(トルコ)

オンラインショップで購入(在线购买)

投稿者:

明珠

明月在天,清辉满地

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